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Business

公開:

2025年3月25日

【企業 meets デザイン STORY】Chapter 01 池田食品株式会社×株式会社インプロバイド

池田食品株式会社企画広報部課長の大久保蘭さん(画像左)と株式会社インプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介さん(画像右)

 

札幌市白石区に本社を構える池田食品株式会社と株式会社インプロバイドによるブランディング・ストーリー。

ロゴやパッケージの変更、店舗改装等を通して実績を築いてきた両者の間では、今も理想的な協働が続いています。

企業とクリエイティブチームの二人三脚を長く続けるための知恵と工夫を関係者の話から探ります。

 

初タッグの「さっぽろ黒大豆」が売上3倍に

池田食品株式会社のブランドサイトを開くと、最初に飛び込んでくるのが「菓子が、すすむ。」というキャッチコピーです。

文末には「わたしたちは北海道の豆菓子屋。菓子がすすむ。池田食品です。」とあり、どれもやさしい言葉から企業が目指す姿が過不足なく伝わってきます。

 

池田食品の始まりは、1948年に前身である有限会社松屋池田商店が椎茸や干し芋などを扱う乾物問屋として札幌で創業。その翌年には落花生を使ったバターピーナッツの製造業に切り替わり、新たなスタートを切りました。

1974年に社名を池田食品株式会社に変更してからは長く愛用してきたロゴやパッケージ等がありましたが、転機は2015年に訪れます。

 

商品開発や産学連携を支援するノーステック財団(公益財団法人北海道科学技術総合振興センター https://www.noastec.jp/)の仲介で、池田食品の量販店向け商品「さっぽろ黒大豆」のパッケージデザインを札幌のプロダクション、インプロバイドに依頼することに。

 

池田食品×インプロバイドコラボは「さっぽろ黒大豆」からスタート。バイヤーからの評価も高く、池田食品の名を印象づけた。(提供写真)

 

この初タッグによって商品売上が3倍増という目覚ましい成果を生んだ両者は、その後ブランドロゴマークや統一パッケージ、白石本店と矢継ぎ早にリニューアルを敢行。7年近くの歳月を経た現在も二人三脚は続き、iKEDAブランドは順当に売上を伸ばしています。

 

乾物問屋時代のブランドロゴをリデザイン。豆菓子の「菓」をセンターに据えたことでグッと親近感が増した。(提供写真)

 

既成事実を積み重ねブランディングは長期戦で

一口にブランディングといっても、商品ブランドや事業ブランド、企業ブランドなど対象となるものによって取り組む手法や規模、そこに伴う費用感も異なります。

「中小企業の場合、まずは皆に身近な商品ブランドから始めるのがいいと思います」。インプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介さんはそう呼びかけます。

 

池端さんはJR貨物北海道支社の新聞広告等で知られる腕利きのコピーライターでもあり、デザイナー兼クリエイティブディレクターが圧倒的に多い北海道で「言葉の人」がブランディングの入り口から参画する成功事例を増やし続けています。

 

「一つ一つのマイナーチェンジで、デザインやコピーが売上に貢献できるという既成事実を作っていく。数字や外の評価が上がっていけばじきに社内にも賛同の空気が高まっていきます。一度に全てをガラッと変えなくてもいい。何年もかけて“一緒に作っていきましょう”という関係を築き上げていくことが大切です」

 

主力商品パッケージは中身が見える窓付きデザインで統一。商品名はシールで貼るため、ワンデザインで済むコストダウンになった。上品な紺色も好評で企業利用が増えたという。

 

他方、中小企業にとってはロゴを変えるだけでも一大事です。デザイナーからの複数案を前に「どれを選べばいいのかわからない」という声も少なくありません。ただそこで単なる“好き嫌い”を指標にしてしまうのは、果たして説得力のある決断だといえるでしょうか。

 

「ブランドとしてこの先どう運用していくのか長期的な視点を共有できていれば、選ぶ基準も見えてきます」と池端さんが言うように、長い目でブランディングを考える。そこに解へのヒントが潜んでいるようです。

 

池田食品の看板イベント「池田の節分フェス」は子どもたちのお楽しみになっている。人気キャラクターのにこにこおにも元のデザインを活かしつつ落花生のパンツスタイルに変身した。

 

相手が動きやすい進行管理・社内プレゼンを

池田食品の大久保さんは企画広報部の専任です。社内外の双方向に調整力が求められる職務で気をつけていることを聞くと、一つ目は「スケジュール管理やレスポンスです」という答えが返ってきました。

 

「たとえば何かのデザインをご提案いただいたときに社内で検討しているうちに時間が経ち、実現が遠のく場合もゼロではありません。ですが提案した側はどんな答えでも待っているはず。曖昧な状態をできるだけなくすため、何らかのお返事は必ずするように心がけています」

 

実は大久保さんは元プロダクション勤務のコピーライター。広報の仕事がしたくて3年前に池田食品に転職しましたが、クリエイティブチームの心情は手に取るようにわかります。

「案件によってはそれなりに時間がかかるということもありえます。その場合も後で必要とされる時間を見越して進行管理をし、クリエティブチームにしっかりと考える時間を確保してもらいたいと思っています」

 

「“街中で池田さんの紙袋を持ってる人を見かけて買いたくなって来ちゃった”と言ってくださるお客様もいて、一つ一つの宣伝効果を実感しています」と語る大久保さん。

 

そしてもう一つ大久保さんが心がけていることは「社内に対しても準備が大事。インプロバイドさんから上がってきた企画やデザインを社内にプレゼンする際は、相手がより判断しやすくなるような資料を用意しています」

担当者として必ず意見を求められることを想定し、回答とその理由も考えておく。社内の判断をサポートする的確な仕事ぶりが光ります。

 

ブランディングのゴールはファンづくり

企業向けのセミナー講師も務める池端さんは、ブランディングの効果について次のように指摘します。

「価格競争からの脱却や社内のモチベーションアップなど様々な効果をあげることはできますが、一際重要なのは採用です。企業の継続には人材確保が必要不可欠。 “食べたことがある”“おいしいよね”と思ってもらえることが応募の入り口になります」

 

消費者だけでなく将来の従業員も含めたファンづくりこそが、ブランディングの真の目的。現に広報の大久保さん自身も「池田食品を小さい頃から知っていた親近感やリニューアル後の洗練されたiKEDAブランドに惹かれて」転職を決めた一人なのです。

 

白石本店限定で食べられる『ナッツペーストシェイク』『ナッツペーストディップ』はインプロバイドが提案した新メニュー。(提供写真)

 

では、このAI時代にブランディングを外部の制作会社に依頼する必要性とは何か、池端さんは「成長です」と即答します。

「企業にとっての現状維持は将来的には衰退と同じこと。新しいことや新しい人を取り入れて成長することで初めて持続可能な企業になっていく。そこにぜひプロの力を投入していただきたいです。“変わり続けたい”という企業の覚悟と“その本気に応えよう”というクリエイターの矜持が重なれば、結果的にコストダウンにもつながります」

 

広報担当者がクリエイティブ出身というケースは多くはないが、「広報や宣伝の部署もクリエイティブな仕事。今後そういうキャリアの担当者が増えてほしいです」(池端さん)

 

企業にとっても「社内にいると発想が凝り固まってしまいがち。思いも寄らなかった提案をいただくことでたくさんの気づきを得ています」と大久保さん。

職務的には中小企業に多い“一人広報”の輪がもっと広がれば、とも願っています。「業界は違っても抱えている課題は近く、情報交換ができたらきっとお互い励みになるはず。そういう集まりがこれから増えていくといいですね」

大久保さん(画像左)と池端さん(画像右)
大久保さん(画像左)と池端さん(画像右)

 

池田食品株式会社  https://ikeda-c.co.jp/
株式会社インプロバイド  https://improvide.co.jp/

 

取材 佐藤優子 https://www.facebook.com/yukosato.mimibana

撮影 マカロニ 大橋泰之 https://macaroni-photo.com/